文楽 木版 絵はがき集 斉藤清二郎
老女の首(かしら)
 文楽には、老女の役に遣う首(かしら)が数種あり、特徴によって世話、時代、また善良、悪役と使い分けていたのが時代を経るにつれて固定化した。
  








「悪婆 わるばば
 心中宵庚申 八百屋 伊右衛門女房
 暁烏六花曙 山名屋 遣り手おかや
意地悪く下卑た世話物の姑婆に用いる。
「世話の婆 せわのばば
 双蝶々曲輪日記 引窓 与兵衛の母
 摂州合邦辻 合邦内 合邦女房
地味な役柄だが、舞台には老巧な遣い手が求められる。
「時代の婆 じだいのばば
 菅原伝授手習鏡 道明寺 覚寿
 近江源氏先陣館 盛綱陣屋 後室微妙
上品さと気丈さをそなえた老女。遣い手にも貫禄が求められる。
「莫邪 ばくや
 奥州安達原 一つ家 老女岩手

 信州伊那谷の伊豆木(長野県飯田市伊豆木)に伝わる江戸中期頃の名品首。凄愴味あふれる造形は、古浄瑠璃首特有の誇張と省略が素晴らしい。
 「莫邪」の名は、1729年竹本座初演「眉間尺象貢(みけんじゃくぞうのみつぎ)」に登場する刀鍛冶、干将と莫邪夫婦に由来する名であり、刀の銘でもある。物語は、中国春秋時代の呉越春秋の逸話にもとづいている。
「莫邪 ばくや
 奥州安達原 一つ家 老女岩手
 伊賀越道中双六 円覚寺 母鳴見
時代物の凄惨剛悪な妖婆に用いる特殊首。
「悪婆 わるばば
 心中宵庚申 八百屋 八百屋の母
 暁烏六花曙 山名屋 遣り手おかや
  鬘 胡麻のひっくくり(ごまのひっくくり)
  現存せず(1945年3月 戦災のため焼失)
  写真 入江泰吉 (写真家 1905-1992)