叙事詩
『アダミテー』 の挿絵には緻密でドラマチックな表現と「アール・ヌーヴォーの華」ミュシャらしい優美さがあらわれています。
スヴァトプルク・チェフの叙事詩『アダミテー』は15世紀ボヘミア(チェコ)のフス派宗教改革の混乱の中、復古的キリスト教のアダム派の悲劇を詠んだ長編詩です。
彼らは人類創造のアダムの時代を理想として無人島であらゆるものを共有して裸で原始共産的生活をしていましたが、カトリック教会からだけでなくアダム派を行き過ぎとみたフス派からも攻撃されて滅びました。
はじめての挿絵
『アダミテー』の出版は1897年ですが挿絵を制作したのは1890年頃です。ミュシャのもっとも初期のものですが挿絵の完成度は高く、後の『スラブ叙事詩』にもつながるミュシャ独自の歴史表現の代表的な作品です。
「中世の歴史詩だから衣装を描くのがたいへんだろうと思っていたがアダム派はほとんど裸で暮らしているので楽だった」とのちにミュシャは語っています。しかし実際には衣装だけでなく歴史背景にいたるまで綿密に考証して挿絵を描いています。
『アダミテー』の出版は遅れましたがミュシャの挿絵画家としての力は最初期から非常に高く評価されプラハとパリの出版社からの注文が相次ぐことになりました。
チェコ
プラハ市内ヴルタヴァ川(モルダウ川)には『アダミテー』の作者の名前を冠した「スヴァトプルク・チェフ橋」がかかっています。中世の伝説では「チェフ」はスラヴ人のグループをヴルタヴァ川流域の肥沃な土地に導いた最初の指導者の名前で、チェコという部族名、地名になり国名となったとされています。
もちろんあくまでも伝説であり、詩人スヴァトプルク・チェフ自身が民族の創始者の直系というわけではないのですがチェコの人たちの心にそのような伝説を思い起こさせる名前です。
アダミテー スヴァトプルク・チェフ著 シマーチェク社 1897年刊
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スヴァトプルク・チェフ
(1846-1908)
没後50年記念切手