『愛人たち』とも『恋人たち』とも訳される喜劇"Les Amants"はモーリス・ドネイ(Maurice Charles Donnay 1859-1945)の代表作のひとつです。ルネサンス劇場での上演ですがジャンヌ・グラニエ(Jeanne Gtanier 1853-1939)とリュシアン・ギトリー(Lucien Germain Guitry1860-1925)の2人が主役をつとめています。この公演時ではありませんがサラ・ベルナールも「愛人たち」を演じました。
画面をフレームで区切ってパーティーの場面をメインに描き、左上にマリオネット(人形劇)右上では悲劇の場面を描いて演劇の進行を暗示しています。俳優のグラニエとギトリーは人気がありロートレックもカルトン(厚紙)に油彩で2人の絵を残しています。
『愛人たち』(1895年)
『リュション』 観光ポスター
『リュション』(1890年)
F.タマーニョ
『リュション』(制作年不詳)
P.シャンゼー
『リュション』(1922年)
R.スビエ
『リュションの花まつり』(1890年)
J.シェレ
『リュション』は、スペイン国境に近いピレネー山中の温泉保養地「リュション」へ観光客を誘うパリ=オルレアン鉄道のポスターです。フランス王立医学会発行の1782年版温泉効能リストにも掲載しているリュションはカジノと浴場施設の豪華な建物を18世紀後半に建設し、貴族や高級軍人を呼び込んで成功につなげたようです。ポスターに描かれているこの建物は現存しています。
美しい町の眺望を「ピレネーの女王 La Reine des Pyrénées」と呼び、町を囲む10以上もある峰々を馬で巡ってパノラマを楽しむツアーでも湯治客を呼び込みました。ベレー帽と民族衣装を着た乗馬の男がその魅力を伝えています(「バスクの民俗だったベレー帽がピレネーに伝わり、ピレネーを好んだ画家と軍人から世界へ広まった)。ミュシャだけでなく、リュションの観光ポスターにはこうした乗馬姿と山から見おろす町の風景を描いているものが多くあります。足元に咲く花「シクラメン」の名前は「回転」、「旋回」を意味するギリシア語の「キクロス」が語源で、パノラマを巡るイメージを伝えています。
『リュション』のポスターは、女性を描いていないのとミュシャのサインがないため、カタログやオークションなどでグラッセ作とかタマーニョ作などと間違って紹介しているものがあります。しかし、描線の特徴などからミュシャの作品であることにに間違いありません。さらに『リュション』の下絵をミュシャが手元に保管していたこと、それが子息のイジー・ムハから土居君雄さんに譲られ、現在も土居君雄コレクションに伝わっており、ミュシャの手になることは確かです。(右側枠内の「カジノ」と「浴場」は、写真を参考にリトグラフ職人が描いた。タマーニョ、シャンゼーのポスターでも建物は職人が描いている。)
右の『オムデコール』は、インテリアの家具や美術品販売店「オムデコール Home Dècor」のための4作品のうちの「花」をテーマにした作品です。他に『果物』、『狩り』、『釣り』を制作しました。同じ絵でサイズの異なるコピーとポストカードなどがあり、箱根ラリック美術館が所蔵する油彩が『花』のオリジナルと考えられます。
『リュション』ポスターの下絵(1895年)
土居君雄コレクション
『オムデコール』(1894年)
『リュション』(1895年)