サロン・デ・サン第20回展
リトグラフ 1896年
サロン・デ・サン
『サロン・デ・サン』は文芸美術雑誌『ラ・プリュム』を刊行していたラ・プリュム芸術出版社が所有する展示場の名前。社主のレオン・デシャン(1864-1899)はミュシャを発掘した1人です。
デシャンはサロン・デ・サンのポスターをシェレ、グラッセ、ボナール、ロートレック、アンソール、ベルトン、スタンラン、ド・フールなど当時活躍していた第一線の画家あるいはデシャン自身が見出した画家たちに依頼しました。
ミュシャ・スタイル
ミュシャのアトリエをはじめて訪れたデシャンは、そこにあった未完成の作品を見てぜひポスターに使いたいとミュシャにせまりました。それがこの『サロン・デ・サン第20回展のポスター』です。髪が目を導いてポスターの文字に注目させる「ミュシャス・タイル」の第一作といわれています。
ラ・プリュム
『ラ・プリュム』はフランス語で「羽根(=羽根ペン)」を意味し、文芸芸術を象徴しています。ミュシャは半裸の女性に羽根ペンと 美術を示す絵筆を持たせ、芸術を表わす「知」と「感情」のシンボルを脇に抱えさせています。心臓の形に描かれたホルスの目(ウアジェトの目)は知を表わすことがあるので知性のシンボルとも考えられます。
タイトルバックの赤と膝の白い布のコントラスト、たばこを持っているかのような手(ペンと絵筆を持つ手指は不自然です)と煙の描き方は、女性の表情とともに『ジョブのポスター』を思わせます。
レオン・デ・シャン
レオン・デシャンがグランド・ショミエール通りのアトリエをはじめて訪ねたとき、デシャンはミュシャに好印象を持つとともにアトリエの隅にあったデッサンに惹かれます。「頭を傾けた半裸の女性の金色の髪は複雑なアラベスク模様を描きながらカールしており、女性の顔には神々しいような倦怠感が漂っていた。絵全体から言いようのない魅力が発散している。」デシャンは多少強引にこの作品を譲るようミュシャに申し出、『サロン・デ・サン第20回展』のポスターにしました。
現在残っているデッサンの「半裸の女性」はすでに羽根ペンと絵筆を持っているのであくまで想像でしかありませんが、あるいはこの作品はジョブ社のためにミュシャがデザインしていたものかもしれない、そう考えたくなるポスターです。
もしその通りだとすればデシャンの強引さのおかげで『サロン・デ・サン第20回展』と『ジョブ』、2つの素晴らしいポスターを私たちは手に入れられた、ともいえるかもしれません。
ラ・プリュム芸術出版社社主のレオン・デシャン (左)と、当時サロン・デ・サンがあった建物(右)
デシャンは、ミュシャを見出した人物のひとりでもある。
『サロンデサン第20回展』 デッサン
1896年
パリ・カルナヴァレ博物館 蔵
『サロン・デ・サンのポスター』
左から ロートレック、アンソール、グラッセ (画像をクリックすると拡大します。)