ハムレット
シェイクスピア(William Shakespeare 1564-1616)のもっとも有名な悲劇です。サラ・ベルナール(Sarah Bernhardt 1844-1923)は原作にほぼ忠実にフランス語で上演しました。
それまでサラ・ベルナールは女優としてオフィーリア役を演じていました。しかし男役の『ロレンザッチオ』があたって、1898年のこのときにはじめて男装のハムレット役に挑戦し、それまで以上に好評を博して『ハムレット』はサラベルナールの当たり役となりました。
オフィーリア
ハムレットの足元には狂死した恋人のオフィーリアが横たわっています。歌いながら小川に漂うオフィーリアはラファエル前派 J.E.ミレー(John Everett Millais 1829-1896)の美しくも悲しい絵(テート・ギャラリー、ロンドン蔵)が知られていますが、ミュシャのオフィーリアも花の流れとともに美しく描かれています。
剣
劇の進行で重要なハムレットの「剣」は、ポスターでもデザインの要になっています。
デッサンでは真下に向いていた剣を、完成したポスターでは、ハムレットとオフィーリアの悲しい関係を暗示するように、オフィーリアの心臓に向くよう剣先を傾けて描き改めました。剣の傾きが画面の安定を破ってポスターを見る人の注意を呼び、ハムレットの黒い衣装、バックの夜景とのコントラスト、ケルト文様の曲線と剣の直線、それぞれの対比が相乗的に効果を高めています。
ケルト
『ハムレット』のポスターにはケルト族の動物文、組紐文が見られます。
「ケルト」は古代ヨーロッパの各地に住んでいました。「ボヘミア」というチェコを指す地名は、ケルトの人たちのうち北部イタリアあたりからスロヴァキアを経てモラヴィア、チェコへ移動してきた「ボイイ部族(Boii)の土地」という意味のラテン語から来ています。実際、チェコ、モラヴィア各地でケルト遺跡が発掘されており、チェコの装飾の深層にはケルト文化の影響があります。『黄道十二宮』や『イルゼ』にはケルト文様が見られ、ミュシャも意図してケルトの装飾を取り入れていることがわかります。
サラ・ベルナール
『ハムレット』はジスモンダから始まってミュシャとサラ・ベルナールに幸運をもたらしたポスター・シリーズ最後の作品になりました。
デッサンでは ハムレットの剣先は、オフィーリアでなく真下を向いていた。
『オフィーリア』(1852年) ロンドン・テイト・ギャラリー蔵
ジョン・エヴァレット・ミレー(John Everett Millais 1829-1896)
ミュシャ 『ハムレット』のオフィーリア
ハムレットを演じるサラ・ベルナール
『ハムレット』(1894年)
ベガースタッフ兄弟
(J.P.Beggarstaff1869-1941,
W.N.Beggarstaff1872-1949)