原故郷のスラヴ人

青い夜空 ―『原故郷のスラヴ人』

三季節
 『三季節』は、春・夏・冬を三つの色であらわしています。この三色はミュシャを理解するうえで大切な色です。
 ミュシャが生まれたチェコだけでなくロシアなどスラヴ諸国には白・赤・青三色を国旗にしている国があります。スラヴの三色旗にはフランスの国旗の「自由・博愛・平等」とは異なる意味があります。


 青は太古の神秘の時代。スラヴ民族がまだ狭い地域に住んでいた頃を表わし「スラヴはひとつ」というスラヴ連帯のメッセージです。

 チェコがヨーロッパの中心だった時期があります。ボヘミア(チェコ)最初の王朝プジェミスル家の血を引く名君カレル4世(在位1355-1378 ボヘミア王カレル1世、神聖ローマ皇帝としてはカール4世。一般にカレル4世と呼んでいる。)が神聖ローマ帝国皇帝の地位にあってプラハを都としていた14世紀です。チェコではこの「中世の栄光の時代」を赤で表わします。

 「三季節」 が描かれた当時、チェコはオーストリア・ハンガリー二重帝国の支配下にあり、1618年から300年ちかくミュシャの祖国「チェコ」は存在していませんでした。ミュシャは「祖国とスラヴ文化の回復」、「未来の希望」を白あるいは黄色で表現しています。
スラヴ民族
 『三季節』のリトグラフは一年の季節の移りかわりを描くだけでなく、朝・昼・夜の時の流れ、幼年・成年・老年という人生の季節、さらにスラヴとチェコの歴史をひとつの作品に込めています。
 ミュシャが「四季節」ではなくて「三季節」にした理由はそこに あります。

 社会主義の時代を経て今は必ずしもスラヴを表わす色とはされていません。現在のチェコ共和国では、白は「純粋・清潔」、青は「空」を赤は「自由のために流された血」をあらわすとしています。また1918年の独立の際にはボヘミア王国の白(銀)と赤、二色を国旗にしようとしたところ、ポーランドと重なるためやむを得ずモラヴィア、スロヴァキアの青を加えて三色旗にしたといういきさつもあります。
 しかし今もロシアをはじめスラヴ諸国の多くが青・赤・白
(黄)の三色を国旗に採用しており、スロヴァキア、スロヴェニアなどでは公式に「白赤青の三色はスラヴ民族を象徴する」としています。

スラヴ諸国の国旗 (現代)
チェコ(上左) スロヴァキア(上右)
ロシア(下左) スロヴェニア(下右)

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『原故郷のスラヴ人』(部分)