カレンダー

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ロリュー
  『Ch.ロリュー社カレンダー』は、ミュシャ広告デザインのごく初期のものです。
 印刷用インク製造販売のロリュー社は1818年に
ピエール・ロリュー(Pierre Lorilleux 1788-1865)が創業し、息子のシャルルがさらに会社を発展させました。社名の「Ch. LORILLEUX」シャルル Charlesの名前によります。
 カレンダーは1ヶ月毎の12枚からなり、イラストは12ヶ月すべて異なりますが統一感のある優れたデザインです。
 
右半分にカレンダーを配置して左側には女性像と雄鶏を描いています。各月の女性はそれぞれ「印刷」や「科学」、「化学」、「美術」、「絵画」など印刷インクとのかかわりを表し、「雄鶏」はフランスの象徴です。
 女性の上には「Ch. LORILLEUX & Cie」の社名を、下にはどの絵にも ロリュー社のマークである風車を配し、右側カレンダー部の上の円には各月をあらわす星座
(十二宮)の動物と少年を描いています。
ポスター研究家のレナート Jack Rennert氏によると、少年はロリュー家の子どもをモデルに描いたということです。
挿絵 広告デザイン
 カレンダーは1894年用ですが、ミュシャがデザインしたのは当然ながら前年の1893年です。1893年のミュシャは一般にはまだ知られていませんが、パリとプラハの出版界では注目されていた新進挿絵画家でした。カレンダーを依頼された頃もセニョボスの『ドイツ史』 はじめ挿絵の仕事をいくつも抱えていました。
 『ロリューのカレンダー』のイラストを見ると、女性のポーズや描き方、背景は、ミュシャの挿絵を思わせ、画面の効果や象徴の扱いなどにはポスターの「ミュシャ・スタイル」がすでに現れています。挿絵からポスターへのいわば移行期らしい両方の特徴に写実と装飾、メッセージを伝えるポーズや象徴、そのほかミュシャの生涯を一貫する特徴のほとんどがロリューのカレンダーに見られます。
男性?
 カレンダーの左側には印刷術や芸術の要素を象徴する「女性」を描いているのに、「1月」と「3月」は男性です。なぜでしょう。
 「1月」には中世の人物らしい胸像を描いています。 この男性は、印刷の発明者ヨハネス・グーテンベルク
(Johannes Gensfleisch zur Laden zum Gutenberg 1398-1468)です。グーテンベルクの活版印刷術成功は、金属活字とともに、印刷に適した油性インクの開発にあり、グーテンベルクはまさにロリュー社の原点です。
 現代(19世紀末当時)風の服装をした
「3月」の男性は、シャルル・ロリュー(Charles Lorilleux 1827-1893)です。シャルルは、ロリュー社を大きくしただけでなく、印刷技術の発展と普及に貢献した功績で1891年にフランス政府からレジオン・ドヌール勲章を授章され、パリ市に隣接するデファンス地区の「シャルル・ロリュー通り rue Charles-Lorilleux」にその名前がつけられています(デファンス地区は現在パリ市内だが当時は市外)
 シャルル・ロリューの肖像を「1月」でも「12月」でもなく「3月」に置いた理由は正確にはわかりませんが、1893年3月にシャルルが亡くなっているので、あるいはミュシャが敬愛と追悼の意をこめて彼の姿を「3月」に置いたとも考えられます。

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