カレンダー?
年が替わっても使い続けられる「万年暦」です。下に伸びる紙の帯を引くとギリシア劇の3つのマスク(仮面)の口にそれぞれ曜日、日付、月名があらわれるようになっています。(左下にある「カレンダー」の画像をクリックするとその様子がわかります。)
美人コンテスト
中央にはギリシア神話の 「パリスの審判」 の場面を描いています。「パリスの審判」は、「トロイの木馬」やシュリーマンの発掘で有名なギリシアとトロイアの戦争の原因になったパリスと3人の女神の神話です。
画面の左側にパリスとヘルメスが、右側には「ヘラ」、「アテナ」、「アフロディーテ」の三美神がいます。パリスはゼウスの命令で三美神のうちで誰が最も美しいかを判定して黄金のリンゴを授けようとしています。
黄金のリンゴをさし出しているパリスはトロイアの王子ですが羊飼いをしていたので足元に牧羊犬、向こうには羊の群れがいます。パリスのところに3人の女神をつれて来たヘルメスは俊足をあらわす翼のついたサンダルと帽子を身に着けています。
右奥にいるのはゼウスの妃のヘラ。高貴をあらわすクジャクを連れています。
メデューサを刻んだ冠に手を伸ばしているのは知恵と勝利の女神アテナ。盾と兜を持ち、肩には知恵をあらわすフクロウがとまっています。
パリスに選ばれて黄金のりんごを受け取ろうとしているのは愛の女神アフロディーテ (ビーナス) 。アフロディーテはクピド(キューピッド)とともに描くことが多いのですが、ここでは2羽のハトがそれをあらわしているのでしょう。
多くの画家が『パリスの審判』の絵を描いています。チェコの画家で、パリ時代のミュシャが尊敬していたV.ヒナイスにも同じテーマの作品があり、ミュシャは彼の作品から影響を受けてこのカレンダーの絵を描いています。
ヴィーユマール
カレンダーの周りをパルメット文様で飾り、絵の上下の帯絵はギリシアの壺などに見られる「フリーズ・スタイル」です。フリーズをよく見るとなんとリトグラフを製作している様子です。もちろん1798年に発明されたリトグラフが古代ギリシアに登場することはありません。フリーズの中にヴィーユマール社の名前を書いてこのカレンダーがヴィーユマールリトグラフ印刷所製であると示すと同時にリトグラフ印刷所の老舗ヴィーユマールを称賛しているのです。
ヴィーユマール印刷所 (リトグラフ工房)でミュシャが制作したのはこのカレンダーの他にもう1点が知られるだけですが、ミュシャとヴィーユマールの取り組みは、「印刷」の発展のために重要な出来事としてリトグラフの歴史の中でも伝えています。
ミュシャはこのカレンダーを1897年6月にサロン・デ・サンで開いた個展にも出品しました。
古代ギリシアのフリーズ・スタイルで描いたリトグラフの製作風景
『パリスの審判』 の デッサン 水彩 1894年頃
パリスの審判 (ヴィーユマール印刷所のカレンダー) 1895年頃 リトグラフ