10歳の少女
第1次世界大戦終結間近の1918年10月28日、チェコスロヴァキア共和国が誕生しました。300年にわたるハプスブルク・オーストリアの支配からの独立です。
独立10周年を祝うポスターの少女は10歳になったチェコスロヴァキア共和国です。パリ時代に比べてチェコスロヴァキア時代のミュシャ・ポスターの多くには少女が登場し、そのほとんどがチェコスロヴァキア、モラヴィア、プラハやスラヴ民族を象徴しています。
青いガウンの女性が少女の後ろから祝福の花輪をさしかけています。スラヴ菩提樹(セイヨウシナノキ)の葉を頭に飾る女性はスラヴ民族の理想を女性の姿で表現する「スラヴィア」で、ここではスラヴ民族を表しています。ガウンの青い色には「スラヴ民族は一つ」というメッセージを込めているのと同時に、青いガウンは聖母マリアの象徴なので、幼子イエスをまもるマリア"聖母子"のイメージと重なります。
花輪の意味
ミュシャ・スタイルの特徴でもある円形の装飾はスラヴ民族連帯の運動"ソコル"のシンボルであることが多いですが、ここでも花輪は"ソコル"をあらわしています。
花輪は下の部分が未完成で完全な輪になっていません。しかし、花輪の欠けたところに少女がぴったりおさまるように描かれており、チェコスロヴァキアがスラヴ民族の連帯の重要な役割を担うことを示しています。それとともに、5つの地域・民族で構成するチェコスロヴァキアの団結・連帯をもうながしています。
白、黄、赤、青に単純化されたポスターの色彩は、チェコおよびスラヴの歴史を象徴するミュシャの表現です。
5つの紋章
少女の額には1918年に独立したチェコスロヴァキア共和国の5つの地域の紋章があり、 左からシュレジエン(ワシ)、スロヴァキア(十字架)、ボヘミア(ライオン)、モラヴィア(ワシ)、ルテニア(クマ) を表します。
独立10周年を祝うポスターですが同時にスラヴの歴史を表現しスラヴ民族の連帯を呼びかけるなど、チェコスロヴァキアの大切なメッセージを込めてこのポスターを描いているのです。
聖母マリアは、赤いドレスに青いガウンをまとった姿で描かれることが多い。赤は"慈愛"を、青は"悲しみ"をあらわすといわれるが、三原色の赤・青・黄はたがいの色を目立たせる効果があり、画面構成を単純化しわかりやすくする。隣接して黄色が用いられることもよくある。
左 『美しき女庭師の聖母』(部分) ラファエロ(Raffaello Sanzio 1483-1520) ルーヴル美術館
右 『受胎告知』(部分) レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci 1452-1519) ウフィッツィ美術館
スロヴァキア共和国 国章切手(左)とルテニア(カルパティア・ルテニア)の国章(右)
ルテニアは1939年に独立して「カルパト・ウクライナ共和国」になったが、ナチス・ドイツと密約のあったハンガリーが独立当日に侵攻して併合され、わずか3日で消滅した。
第二次大戦後ソ連領になり、ソ連崩壊後はウクライナ共和国のザカルパッチャ州。
現在のチェコ共和国国章
1993年に分離したスロヴァキアの紋章はない。
チェコスロヴァキア共和国時代の国章
(チェコ 国会議事堂)
ホップ(ビール)とブドウ(ワイン)、小麦やキノコ、花などでチェコスロヴァキアをあらわしているが、ルテニアの国章は描いていない。
『1918-1928 チェコスロヴァキア独立10周年』(1928年)
ヨゼフ・ラダ( Josef Lada 1887–1957)
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左から
ワシ ・・・ シュレジエン
十字架 ・・ スロヴァキア
ライオン ・・ ボヘミア(チェコ)
ワシ ・・・・ モラヴィア
クマ ・・・・ ルテニア
リトグラフ 1928年
1918-1928 チェコスロヴァキア独立10周年