『ブルノ学校基金』 (左) と『脅威』 (上)
ともに学校建設基金宝くじのポスター原画として描いた。
スヴァントヴィト像と少女。「金色の巻き髪の少女」は
太陽の輝きをあらわし、希望を象徴している。
『スラヴ叙事詩展』ポスター (1928年 部分)
「未来の希望」を象徴する「チェヒア」はミュシャの様々な作品に登場する。中期の重要な油彩作品『ハーモニー』 (1908年)では将来に誕生するであろうチェコを抱く姿で描いている。
『ハーモニー』を制作していた頃、妻のマルシュカは妊娠中で、ミュシャは初めてのわが子の"未来の希望"を重ね合わせて『ハーモニー』にチェヒアを描いた。
日本でいえば年末年始宝くじにあたるフランス国営の宝くじポスター。クリスマス(年末)と公現節 (年始、1月6日)の2部に分かれている。
"公現節"とは東方の3人の王(博士とも)が星をたよりにベツレヘムを訪れキリストに会った日をキリストがはじめて人々あるいは異邦人の前に姿を現したという意味で"公現節"あるいは"顕現節"とよび、キリスト教国の多くでは祝日に定めている。
サヴニャックのポスターではサンタクロースと異邦人の王ををたくみに表現している。王たちがお祝いに持参した黄金、没薬、乳香も"宝くじ"らしくアレンジしている。
『フランス国営宝くじ』
サヴィニャック Raymond Savignac 1972年
宝くじのポスター
宝くじで 学校を
当時のチェコはオーストリア・ハンガリー帝国の領土でした。きびしいゲルマン化政策のもとチェコ語は劣等とされて公立学校ではドイツ語で教育することが決められていたためチェコ人でありながらチェコ語が使えない世代が育っていました。ミュシャ自身はチェコ語で教育をするブルノのギムナジウム(大学進学前の中等教育学校)に通っていたので学校の大切さを強く認識していました。
チェコ語で教育をするには貧しいなか自分たちで私立学校をつくるしかありません。宝くじはその資金を集める方法のひとつでした。
ペンとノートを持つ少女はチェコ語の教育を待っている子どもたちです。
木の上のチェヒア
うなだれて木の上に座る女性はチェヒア(チェコを象徴する「お母さん」)です。チェヒアが腰かけている木は枯木でチェコの不毛の状況を象徴しています。
後ろには3つの顔を持つスヴァントヴィト神の木像が描かれ、すがるようにチェヒアが右手をかけています。チェヒアが左手で口と耳を覆ってうなだれているのは言葉が失われているチェコを示しています。
少女の顔から神像へ
少女に光があたって輝いてるのでポスターを見る人の目は少女の顔に引き付けられ、そこからチェヒアの左腕をたどって木像に刻まれた太陽に導かれます。
スヴァントヴィト神は太陽を象徴する全能の善の神で希望の神です。太陽をあらわす金の巻き髪の少女を連れているとされていますが、ポスターの少女のみだれた髪はスヴァントヴィト神のアトリビュート(神話の神や歴史上の人物を特定する持物)である"金色の巻き髪"を連想させ希望を思いおこさせます。3つの顔を持つスヴァントヴィト神像には"希望の太陽"とともにアトリビュートの"角杯"、"剣"、"白馬"が刻まれています。
闇から光へ
見た目の色調から暗いという印象を持つ方もいるでしょうがスヴァントヴィトに守られて学校建設の夢が実現する"希望"を伝える強くて印象的なポスターです。