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四 季 
      リトグラフ 1896年

装飾パネル

はじめての装飾パネル
 ミュシャ装飾パネルの第1作です。季節を象徴する連作は、18971年と1900年にも作っており、その他にも、下絵だけ残っているシリーズが2種類、春夏冬の三季節を描いたものなどがありますが、第1作のこのシリーズが最も完成度が高く人気もあります。
 最初の四季のシリーズがヒットしたので、同じテーマのシリーズを作るよう、版元のシャンプノワから何度も要請されました。当時、ミュシャの連作装飾パネルは、1枚10フラン、4枚セットで40フランという、誰でも買うことができる値段で販売していました。

衣装も髪も
 春夏秋冬、それぞれを擬人化した女性のポーズと衣装、しぐさで、季節感を表現しています。髪の色と花のティアラも、季節にあわせて変化させていることに注目してください。
 春は花にかこまれて小鳥たちと歌い交わし、夏のもの憂げで官能的なポーズと視線、葡萄
(ブドウ)と菊を飾った金色に輝く実りの秋、寒さにこごえる小鳥を息で暖めている冬。 いずれも季節の特性を見事にとらえて、アール・ヌーヴォーらしい装飾性と、象徴的でありながら自然な表現で描いています。
 冬の雪をかぶった木は、日本美術の表現をとり入れていることは明らかです。また、縦長の絵を4枚あるいは2枚並べるのも、日本の屏風
(びょうぶ)のスタイルにならっています。
冬から春へ
 冬を象徴する女性は、寒さに震える小鳥を、息と手のぬくもりで温めています。「息」は、日本語でも 「命の気」 につながるのと同様、ギリシア語やヘブライ語でも、「生命」をあらわします。
 春をむかえてよみがえった鳥たちは、芽ぶきはじめた若枝のハープを奏でる春の女性と歌いかわしています。ハープを奏でる女性は"天使"です。西洋の"天使"には羽根がなければならないのですが、ミュシャは、女性の"髪"を天使の羽根を連想させるように描いています。
 季節を単純に4枚の絵に描いたのではなく、冬から春へ復活する季節を描いており、ミュシャの歴史観を見ることができます。

「コチカ レゼ ディーロウ Kočka leze dírou
 "新春"というように、日本では季節は、春にはじまって冬に終わり、再び春を迎えます。しかし、ミュシャの「四季」は、冬から春、夏、秋と進みます。ミュシャが生まれ育ったヨーロッパ内陸では、1月は雪に覆われ、ようやく5月になって訪れる遅い春を人々は待ち望みます。
 ミュシャの「四季」は、どれも"冬"を象徴する女性は、地味な衣装で頭から全身を覆っており、小鳥と歌いかわし、美しい花を抱く姿の"春"とは対照的に描かれています。
 ミュシャの祖国チェコは、数百年にわたって外国の支配を受け続け、文化も言葉も国民としても、チェコは劣っているとされていました。ミュシャは、そのようなチェコの人々に、"作品をとおして希望のメッセージを送ることが画家の務め"と考えていたのです。
 チェコ人なら誰でも歌ったことがある、「コチカ レゼ ディーロウ Kočka leze dírou」という童謡があります。「今は、雨が降っていて、濡れています。でもいつか、必ず晴れるでしょう」という歌詞には、つらい今を耐えて、未来に希望をつなぐ、チェコの人々の意志が込められています。日本でも多くの人が聴いたり、歌ったことがある、スメタナ
(Bedřich Smetana 1824-1884)の交響詩「わが祖国 Má Vlast 第2曲モルダウVltava(モルダウ川はチェコではヴルタヴァ川)」のメロディの原型は、この「コチカ レゼ ディーロウ」です。チェコの人たちは、誰もが幼い時から歌う童謡に託して、希望を未来につなぎ、スメタナもミュシャも、希望のメッセージをチェコの人々に届けることが芸術家の務めと考えていたのです。

右上から 左回りに、春、夏、秋、冬 の順に並んでいます。

コクリコ
 「夏 連作四季」の女性は、コクリコ(coquelicot ヒナゲシ)を頭に飾っています。コクリコはフランスの象徴で、ミュシャはさまざまな絵に"コクリコ"を登場させています。
 コクリコは、フランスで野原や麦畑によく見られるごくありふれた花で、国旗の赤はコクリコとされます(青はヤグルマギク、白はマーガレット)。「ムース川のビール」、「LUビスケットのラベル」は、フランスとフランスの農業をあらわし。「夏 連作四季」ではコクリコの咲く季節、夏を象徴しています。
 ミュシャの故郷チェコでも、コクリコは野に咲く花で、ヒナギクとともにチェコの象徴とされ、「チェコ周遊旅行写真集」の表紙ではチェコの土地を象徴しています。
 コクリコは"雛罌粟(ヒナゲシ)"のほかに、"虞美人草(グビジンソウ)"ともいい、古代中国の英雄項羽と最後を共にしたと伝えられる虞美人(虞家出身の夫人)にちなんで名づけられ、夏目漱石の小説のタイトルにもなっています。

黄道十二宮

夢想

花と果物

三季節

四芸術

四つの時

羽根 桜草

四つの宝石

つたと月桂樹

四つの星

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「夏」 連作四季から

フランスの麦畑に咲くコクリコの花

「三季節」 1896年

ショコラマッソンのカレンダーから(部分) 1897年

 「四季」の連作を、室内に飾ったり美術館で展示するとき、ふつうは春夏秋冬と並べます。しかし、そのように並べて鑑賞すると、上のようにバラバラで落ち着きが悪く感じます。なぜでしょう。春夏秋冬、変化する季節を愛でる日本人の感性とは異なり、ミュシャの美しい「四季」の背景には、厳しいチェコの歴史があります。
 ヨーロッパ中央にあるチェコ
(ボヘミア)は、常に歴史と文化の重要な位置にあり、14世紀の一時期は、政治、経済でも、ヨーロッパの中心でした。しかし、その後は混乱の時代になり、1470年代以降は、外国の支配下に置かれました。とくに1620年からは主権を失ってしまい、ミュシャがフランスで活躍していたころは、300年にわたる"暗黒の時代"にありました。その中で、ミュシャは、未来の希望のメッセージを伝える作品を作り続けたのです。
 「四季」の連作では、"今は冬の季節にあるチェコだが、いつか必ず復活の春の季節が来る"というメッセージを作品に込めています。下のように"冬"を左に置いて並べると、作品の配置が落ち着くだけでなく、"冬"から"春"への復活、さらに、チェコをあらわすヒナゲシを飾る"夏"と、金色に輝く"秋"がメッセージとして浮かび上がってくるのです。

連作「四季」から「冬」、「春」(部分) 1900年

「LUビスケット」 ラベル

「チェコ周遊旅行写真集」 表紙

「ジョブ」(1898年)

「ムース川のビール」ポスター