ラム酒
ラム酒はカリブ海のバルバドス原産とされますが、ストレートでもカクテルでも飲めるように洗練させ、世界的にしたのは、ジャマイカ諸島です。砂糖の原料サトウキビの糖蜜を発酵させ、さらに蒸留し、樽で熟成します。ほのかな自然の甘みと香りが特徴です。
縦約40cm×横約30cm、A3サイズほどの小型のこのポスターは現在まで伝わっているのは、世界で数枚とイヴァン・レンドル・コレクション所蔵の原画のみと考えられます。
ミュシャスタイル
小型で目にする機会が少ないこのポスターは、女性の髪も控えめのせいかそれほど知られていません。しかしミュシャスタイル・ポスターの特徴がはっきりと表れています。
女性の顔に注目した視線は、白い大きな襟にも導かれて顔からグラスへ、そして右手の小さな皿から左腕を伝ってラム酒の瓶に導かれ、さらにその下の 「フォックスランド・ジャマイカラム」
の赤い文字へと運ばれます。
ポスターの効果を確実にするミュシャ・スタイルポスターのデザイン手法は 『トラピスティーヌ酒』 と共通するものです。
ビスケット ?
『ラ・プリュム』 誌ミュシャ特別号(1897年) にはこのポスターの下絵を掲載しています。しかし 「フォックスランド・ジャマイカ・ラム」 ではなく、『ビスケットのポスター』 としていて、構図とデザインは同じように見えますが、よく見るといくつもの違いがあります。
ポスターではフォックスランドのマークがあるところに、下絵では 「L」 と 「U」 の文字を組み合わせたマークがあり、背景の壁紙も 「LU」
の模様になっています。モデルの女性が手に持っているのはラム酒のグラスではなく、左手に持つビスケットを右手のシャンパングラスに浸しており、ルフェーヴル・ユティル社の
「シャンパン・ビスケット」 のためにデザインしたことがわかります。
『ラ・プリュム』 誌 ミュシャ特別号は、6月にサロン・デ・サンで催した個展と関連するものですが、サロン・デ・サンに先がける2月のボディニエール画廊個展にかなりの作品を共通して出品していたことから、『フォックスランド・ジャマイカ・ラム』
のポスターの前に 「ビスケット」 のデザインがあったと考えていいでしょう。
ミュシャ特別号の別のページには、同じ衣装のモデルによる 『リキュール(ラム酒もリキュールに含まれる)のポスター」』 のクロッキーが載っていて、二つのプランには何らかのつながりがあったことが想像されます。
左 『フラート』 ビスケットのポスター (部分) 右 『ラ・プリュム』 誌 ミュシャ特別号から
左 『トラピスティーヌ酒」のポスター』 (1897年)
右 『フォックスランド・ジャマイカ・ラム』 のポスター (部分)
『リキュールのポスターのためのデッサン』
『ラ・プリュム』 誌 ミュシャ特別号 (1897年)
左 『ラ・プリュム』 誌 ミュシャ特別号 から
右 『フォックスランと・ジャマイカ・ラム』 から
『ラ・プリュム』 誌 ミュシャ特集号掲載の 『ビスケットのポスター・デッサン』 背景の壁紙には 「ルフェーヴル・ユティル」 のロゴマークがある。
「L」 と 「U」 を組み合わせた同じロゴマークは、ルフェーヴル・ユティル 『フラート』 ポスターの女性の衣服にも見える。
ミュシャ・コラム
「寄せ集めのミュシャポスター」