シャンパン
 "ミュシャ・ポスター"には、ワイン、ブランデー、リキュールを宣伝するお酒のポスターがいくつもあり、ミュシャ・ポスターのジャンルに"演劇"とならんで"酒類"をあげる例もあります。
 ワインの種類には、盛んに泡が出るのを楽しむ"発泡ワイン
(スパークリングワイン)"があります。発泡ワインのなかでもフランス北東部のシャンパーニュ地方で伝統製法によって製造したものだけを"シャンパン"(正しくは、フランス語でシャンパーニュ、英語でシャンペン)と呼んでいます。
 "リュイナール"は、シャンパーニュ地方の中心地の一つ ランス Reims
(Rheims) にあるメゾン(ワイン製造業者)です。1729年創業の最古のメゾン(モエ・エ・シャンドン Moët & Chandon は1743年創業)で、現在はモエ・ヘネシー社に買収され、モエ・エ・シャンドン、ヘネシー・コニャックと同じ企業グループになっていますが、エリゼ宮のフランス大統領晩餐会ではリュイナール・シャンパンが多く使われるという最上級のシャンパンです。
"ミュシャ・スタイル"ポスター
 「リュイナール・シャンパン」のポスターは奔放に跳ねる髪の女性が見る人の目をとらえます。この髪がはじけるシャンパンの泡を感覚的にあらわし、グラスから立ちのぼる水色の星もシャルドネ系シャンパンの爽快感を伝えます。
 "髪"と"星"には、見る人の注意をポスターの文字に導くという役割もあります。髪が文字へ導くスタイルは「カサンフィス印刷所」、「リュション」のポスターにはじまり、「サロン・デ・サン第20回展」、「ジョブ」で確立したデザインテクニックです。この後、「黄道十二宮」、「サラ・ベルナール(ラ・プリュム)」、「サロンデサンでのミュシャ展」へと洗練を深めて"ミュシャ・スタイル"に定着します。また「ジスモンダ」にはじまる"衣装の裾が文字を読ませる"スタイルも引きついでおり、左手にかかげるグラスがその上の文字へ導くテクニックも「モナコ・モンテカルロ」、「ウェイヴァリー自転車」、「モラヴィア教師合唱団」につながります。赤く塗った背景と黄色の髪、水色と白の衣装など、大胆な取り合わせながら品位を失わないバランスなど、「リュイナール・シャンパン」は"ミュシャ・スタイル"ポスターの軸となる興味深い作品です。

 "金色の髪"と"杯"は、「ブルノの南西モラヴィア宝くじ」と「スラヴ叙事詩展」のポスターにも登場します。両ポスターにはスラヴの神"スヴァントヴィト"が描かれていて、"金色の髪"と"杯"はスヴァントヴィトの重要な"アトリビュート
(神話や歴史の神、人物を特定する持ち物。仏像などの持物にあたる)"なのです。
 4つの顔
(3つともいわれ、ミュシャは3つの顔に過去・現在・未来を象徴させている。)を持ち、古代には戦争の神だったスヴァントヴィト神は中世頃に全能の善の神、平和の神に変化したとされています。戦争をあらわす"剣"と"リュトン型の角杯"を手に、白馬を従えています。血の色の赤がシンボルカラーでしたが、中世以降平和の神になってからは"太陽"をあらわす色に変化し、赤色は栄光の象徴になりました。"太陽"はスヴァントヴィトが連れている"金色の巻き髪の少女"で表現することもあり、金色は黄色とともに希望をあらわすようになりました。
 「リュイナール・シャンパン」の背景の赤色、髪の黄色はスヴァントヴィトを連想させ、左手にかかげるグラスも"角杯"とつながり、さらにフス派信仰の聖杯も思いおこさせます。もちろん、そのようなことはポスターを見るフランスの人たちにはわからなく関係もないことであり、ミュシャのメッセージが伝わるはずもありません。
ポスター展
 「リュイナール・シャンパン」のポスターは街に貼って宣伝する目的よりも、1896年末にランスで開かれた「芸術ポスター展」に出品するため、締め切りがせまる中で制作したものでした。デッサンが完成作のポスターとアイデアにほとんど変化がないのはそのためです。
 また、「リュイナール・シャンパン」のポスターは高さが170cm以上あるオリジナルよりも、90cm足らずの縮小復刻版を見ることが多いのも、芸術ポスター展で高い評価を得てシャンブノワ社
(リトグラフ工房)が売り出した販売用ポスターが広く出まわったためです。
 "ミュシャ・スタイル"ポスターの基本と特徴をそなえた広告ポスターの代表作ですが、ミュシャにとって自分の表現をより強く出すことができたポスターでした。

どちらも"金の巻き髪の少女"を連れて"杯"を持つスヴァントヴィト神像。「ブルノの南西モラヴィア宝くじ」(右)ではスヴァントヴィトの木像に"太陽"、"角杯"、"剣"、"馬"を刻んでいる。

「ヴルタヴァの野外劇」スケッチから
聖杯をかかげて進むフス教徒
(1926年 部分)
「フス教徒切手」(1920年)
「スラヴ叙事詩展」(左 1928年 部分)と「ブルノの南西モラヴィア宝くじ」(右 1912年 部分)

「サロン・デ・サン第20回展」
1896年

「サロン・デ・サンのミュシャ展」
1897年

椿姫
ロレンザッチオ
メディア
サマリアの女
トスカ
ハムレット
カサンフィス印刷所
サロン・デ・サン第20回展
ランスの香水ロド
ジョブ
サラ・ベルナール
サロン・デ・サンでのミュシャ展
モナコ・モンテカルロ
ムース川のビール
トラピスティーヌ酒
ウェイヴァリー自転車
遠国の姫君
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リュイナール・シャンパン

「モエ・エ・シャンドン」
1899年

「リュション」
1895年

"クレマン CRÉMANT"は、シャンパーニュ地方でない地域でシャンパンと同じ伝統製法によって製造した発泡ワイン。

「リュイナールシャンパン」
のデッサン

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ズデンカ・チェルニー
ブルックリン美術館のミュシャ展

ミュシャ・コラム
「寄せ集めのミュシャポスター

シガリロ・パリ Los Cigarillos Paris
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リュイナール・シャンパン    1896年 リトグラフ

ポスター