ポスター

ギリシア悲劇
 『メディア』はエウリピデス(紀元前480頃-紀元前406頃)が2500年前に書いたギリシア悲劇をもとにしています。サラ・ベルナール(Sarah Bernhardt 1844-1923)の崇拝者マンデス(Catulle Mendés 1841-1909)がサラのために新しい解釈で脚本を書きました。
 ポスターのタイトル文字がモザイクでギリシア文字風になっているのはギリシア悲劇の翻案だからです。

子殺し
 ギリシア神話でメディアは太陽神ヘリオスの孫です。英雄イアソンを助けてその妻になりましたが、夫の不義を知ったメディアは激しく怒り、夫との間に生まれた2人の子どもを殺してしまいます。
 ポスターには子どもを捜すイアソンにむかって「もうお前の子どもたちを捜すな。子どもたちはここにいる!」と叫ぶ夜明けのシーンが描かれています。
太陽を背にして黒っぽい衣装に身を包み、怒りと悲しみに目を大きく見開いたメディアは大変印象的です。
アイリス
 メディアは『ジスモンダ』と同じくジャーマンアイリスの花を頭に飾っています。「アイリス」は受難の花といわれ、とがった葉が聖母マリアの胸を刺しつらぬく「悲しみの剣」を連想させます。『ジスモンダ』のアイリスは受難劇をあらわしていますが、『メディア』ではわが子を手にかけるメディアの悲しみをアイリスが伝えます。

世界の宝
 メディアの激しく崇高な性格をミュシャは「蛇」で表現しました。腕の「蛇」は、メディアの助けによってイアソンが得ることができた「金毛の羊」を守るドラゴンを連想させます。
 ポスターの「蛇」を気に入ったサラ・ベルナールはミュシャに「蛇のブレスレット」制作を依頼しました。ミュシャがあらためてデザインしてジョルジュ・フーケ
(George Fouquet 1862-1957)が制作した『蛇のブレスレットと指輪』は、世界的なミュシャコレクター 土居君雄さんのコレクションに収められ、今は「アルフォンス・ミュシャ館」でいつでも見ることができます。
  『蛇のブレスレットと指輪』はミュシャスタイル宝飾の最高であるだけでなく、ミュシャ、フーケ、サラ・ベルナールという19世紀末最高の芸術家3人がひとつの作品に結実している奇跡によって「世界の宝」とされています。
 「19世紀」という概念を持たない我々日本人にはわかりにくいですが、「19世紀」は「人類が知性と文化・芸術の高みをめざして進歩しつづけた世紀」とされ、さらにその先の20世紀への希望をみんなが持つことができた時代と考えられています。「19世紀」は「進歩」という言葉でいいあらわすことができるでしょう。
  『蛇のブレスレットと指輪』は、1980年パリ、1989年東京の「ミュシャ展」、また1994年ミュンヘン、2005年ニューヨークの「サラ・ベルナール展」に出品して世界中で話題になりました。

ファム・ファタル
 オスカー・ワイルド(Oscar Fingal O'Flaherittie Wills Wild 1854-1900)とビアズリー(Aubrey Vincent Beardsley 1872-1898)の『サロメ』、クリムト(Gustav Klimt 1862-1918)の『ユーディット』など、「ファム・ファタル(Femme fatale 宿命の女)」と呼ばれる「エロス(性愛)」と「タナトス(死)」の象徴を19世紀末の画家たちが描いています。 『メディア』のポスターでもミュシャは「エロス」と「タナトス」の両方をシンボリックに表現しており、19世紀末「ファム・ファタル」の代表的な作品です。
日本画
 仏像の「光背」のような表現で描いた日の丸の太陽、屏風絵に見られるような金彩の雲はまるで日本画です。太い輪郭線と余白を残した画面、そして左わきにある「落款(らっかん 書や絵に押す印)」を思わせる文様はミュシャが日本美術に親しんでいたことをうかがわせます。「SARAH BERNHARDT」の文字も縦に筆描きのようなデザインなので、欧米の人たちにはエキゾチックな日本趣味と見えたことでしょう

メディア    1898年 リトグラフ

椿姫
ロレンザッチオ
メディア
サマリアの女
トスカ
ハムレット

カチュール・マンデス
1841-1909

カチュールマンデスのカリカチュア
カッピエルロ

『マンデスの家族たち』 1888年
ルノワール

 『メディア』 を翻案したマンデスは1866年に、ミュシャ挿絵の代表『白い象の伝説」』の著者ジュディット・ゴーティエ (Judith Gautier 1845-1917) と結婚した。
 右のカリカチュアは「近代ポスターの父」カッピエルロ (Leonetto Cappiell 1875-1942)によるマンデスの肖像。
 ルノワール(Pierre August Renoir 1841-1919)の油絵に『カチュール・マンデスの家族たち』という作品があるが、これはゴーティエではなく、彼女と離婚した後に再婚した妻と子どもたちを描いたもの。

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『メディア』のデッサンとデッサンのための写真

『怒りくるうメディア』 (部分)1862年
ドラクロワ(Eugène Delacroix 1798-1863)
ルーヴル美術館蔵

蛇のブレスレットと指輪』とデッサン(上)

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