まっすぐ!
 「ミュシャ・スタイル」は渦巻く髪が特徴といわれます。しかし『トラビスティーヌ酒』では「まっすぐにのびる髪」と「白い衣装」がまず目に入ります。
 白い衣装はこのリキュール酒がトラピスト派の修道院に伝わった製法で作られていることを宣伝しています。実際にはパリのルグィ・ド・デルベルグという酒造会社が作っていました。
まっすぐ!

 もうひとつの特徴は頭上の円にある十字架模様です。女性のえり首にも同じ十字がデザインされています。十字架は白い修道衣とともにこのリキュール酒の起源が修道院にあることを示し、先端が広くなった「クロス・パティ」と呼ばれる十字は瓶のデザインを印象付けます。「クロス・パティ」はドイツの鉄十字の起源でもあります。
 円の背景にはオーストリアとの関連でしょうか双頭のワシが描かれています。
 これらはすべてこの特異なポスターの意味と目線の流れを誘う重要なデザインの要素になっています。
 「ミュシャ・スタイル」の渦巻く髪は目線を誘導するためのものでした。『トラピスティーヌ酒』の髪はまっすぐのびてポスターを見る人の注意を商品に導きます。
集めて集めて

 『トラピスティーヌ酒』のポスター下半分はほとんどまっ白でシンプルです。それに対して女性の顔のまわりはなんとカラフルで複雑ななことでしよう。花を飾った髪、腕にも花を抱え、花を持つ手の指は女性の顔に注目させるように指さしています。
 そう、ミュシャは女性の顔に注目させようとしているのです。商品にではなくて女性の顔に。同心円のえり飾りもその効果を高めています。
 そして少し伏し目加減の女性の目がまっすぐ伸びる髪に誘い、髪の流れに導かれて画面下部へと注意を運びます。見る人の注意は商品を載せたプレートによって直角に曲がり、商品の酒のビンへと誘われるのです。
集めて集めて
 画面下部を白一色に抑えているため髪の効果はより高められ、商品が強く印象に残ります。下に行くほどすぼまる衣装もみちびく髪の効果を助けています。
 女性の顔のまわりが複雑であるほど商品に目がたどり着くとホッとしてしまいます。
 女性の体が「く」の字に軽く曲げられているのも商品に軽くかけている左手の指も、テーブルから垂れる布のひだ、そして画面の隅の花などすべての要素がさらにこの効果を強めています。
 いかにミュシャが工夫を重ねてデザインしているか、それがよくわかるポスターです。

トラピスティーヌ酒   1897年 リトグラフ

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