ポスター

ウェイヴァリー自転車      1898年 リトグラフ

アメリカの自転車
 
19世紀末、若い女性たちの間で自転車が大流行して、新しい時代の活動的女性のシンボルになりました。
 「ウェイヴァリー」 はアメリカの自転車会社です。当時ヨーロッパでは、アメリカを誕生わずか100年の歴史の浅い「新興国」と見ていましたが、ミュシャは、新興アメリカの工業製品ポスターにギリシア・ローマ神話を使って、「技術」 と 「信頼」のイメージを与えています。
ヴィーナス

 『ウェイヴァリー自転車』 の女性は、右手に月桂樹の枝を持ち、ハンマーを置いた鉄床
(かなとこ)に左ひじをついています。鉄床は、ギリシア神話の火と鍛冶の神ヘファイストス(ローマ神話ではウルカヌス)の象徴です。燃える火を思わせる背景の赤も鍛冶の仕事着も、ともにヘファイストスを連想させ、「工具」と「月桂樹」によって技術と信頼性をアピールします。
 ヘファイストスの妻はアフロディーテ
(ヴィーナス)です。ポスターの女性はヴィーナスを連想させる月桂樹を手にしており、ヴィーナスのイメージは、活発で美しい女性につながります。
月桂樹
 
神話のイメージだけでなく、月桂樹の枝にはデザイン上の重要な役割があります。
  ポスターを見る人の目は、女性の顔から右腕を通って月桂樹へ移動し、さらに月桂樹の枝葉に導かれて上に向い、「WAVERLEY」 の名前を読んで記憶します。大きくてシンプルな文字、文字の白、月桂樹の緑と濃赤とのコントラスト、タイトル文字の周りにあるミュシャ特有の飾り
(木を縛る細い皮ひも模様の変形)、そのほかさまざまな仕掛けで「WAVERLEY」に注目させます。『ジスモンダ』 の 「シュロ(ナツメヤシ)の葉」、『サロン・デ・サンでのミュシャ展』 の 「髪」 と同じように、見る人の目を商品名へ導くミュシャの デザイン・テクニックです。
 ミュシャがポスターで成功したのも、サラ・ベルナールがミュシャと専属契約を結んだ理由も、絵の美しさだけでなく、ポスターを熟知したミュシャの巧みなデザイン力にあった
のです。

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 自転車全体を描いているのは当時の自転車ポスターでは斬新。夜空に浮かぶ女性が自転車の軽快感、活発さを伝える表現。
 女性像が見る人の視線をポスターのタイトルに導くのは 『ウェイヴァリー自転車』 と共通する。神話ではないが、星、三日月で伝統をアピールする。右側の 『シリウス自転車』 はドイツのメーカー。

自転車ポスターの名作

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椿姫
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サマリアの女
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サロン・デ・サン第20回展
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モナコ・モンテカルロ
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「寄せ集めのミュシャポスター

 『ウェイヴァリー自転車』と同様、月桂樹がタイトルの文字へ導くデザイン。画面ではわかりにくいが、右手に月桂樹と製図用具のコンパスを持っている。技術を宣伝するのも『ウェイヴァリー自転車』のポスターと同じ。

『クレマン自転車』 1900年 作者不詳

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『クレマン自転車』 1894年
 パル (ジャン・ド・パレオログ)

『シリウス自転車』 1900年
 グレ (アンリ・ブーランジェ)

ムース川のビール
トラピスティーヌ酒
ウェイヴァリー自転車
遠国の姫君
ズデンカ・チェルニー
ブルックリン美術館のミュシャ展
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