イースター
『サマリアの女』 は聖書(ヨハネの福音書第4章)に題材を得た受難劇です。初演は1894年のイースター(キリストの復活祭)にあわせて4月14日から上演しました。
『テオドラ』、『遥かな国のプリンセス』などの戯曲をサラ・ベルナール(Sarah Bernhardt 1844-1923)にささげた劇作家エドモン・ロスタン(Edmond Rostand 1868-1918)による戯曲です。ロスタンの戯曲では 『シラノ・ド・ベルジュラック』 が有名です。
『サマリアの女』の劇音楽は、近代フランス音楽をリードしたガブリエル・ピエルネ(Gabriel Pierne 1863-1937 作曲家、指揮者)が作曲しました。
サマリア
「サマリア」はパレスティナの一地方の名で、現在のイスラエル中部、ガリラヤと南ユダヤの間にあります。サマリアの人々はユダヤ民族に属しますが、紀元前5世紀頃にユダヤの主流から離れ、ほかのユダヤ人たちとは歴史的にたがいに反目しあっていました。
ですからイエスがサマリア地方に通りかかり、のどが渇いてサマリアの女フォティーヌに水を求めたときにも断られても仕方ないはずでした(イエスはガリラヤ地方のユダヤ人)。 しかしフォティーヌはイエスに水を与え、サマリアの人々をイエスの教え(キリスト教)に改宗させたのです。 『サマリアの女』は、この「奇跡」と『ルカによる福音書』にある「善きサマリア人」のたとえ話から題材を得ています。
ヘブライ
古代パレスティナを舞台にした宗教劇なのでフォティーヌを囲む円には星とともにヘブライ文字で「ヤハウェ(「神」の呼び名、ポスターが作られた当時はエホバと発音していた。)」と書かれています。タイトルの『サマリアの女』だけでなく「ルネッサンス劇場」、「サラ・ベルナール」などの文字もヘブライ文字風の書体で書いています。
左下の人物はイエスだとも言う人もいますが、 おそらくは盗賊に襲われ「善きサマリア人」に助けられる傷ついた旅人でしょう。ミュシャが1892年に撮影した写真の中に同じような格好のものがあり、この人物とポーズがよく似ています。この写真が『サマリアの女』のポスターのデッサンと関係があるのか、撮影時期が離れており、たまたま似ているだけなのかよくわかっていません。
サマリアの女が手を置いている壺はオリーブ油かワインの容器です。聖書に「オリーブ油とぶどう酒を注ぎ、包帯をして(サマリヤ人を)介抱した」とあって、どちらも傷を治す薬でした。
『サマリアの女』の下絵ではこの壺に縦長のハートのような文様が描かれていました。フォティーヌの心を表すとともにワインやオリーブオイルの容器「アンフォーラ」をイメージさせようとしたのでしょうが、おそらく「文様があるとポスター効果としての壺の役割が半減してしまう」と判断してなくしたのでしょう。
ミュシャ・コラム
「寄せ集めのミュシャポスター」