ミュシャ ?
ミュシャらしい華やかさや流麗さよりも、むしろ硬さ古臭さを感じさせるポスターです。画面右下のサインがなければミュシャとは思えません。贋作の「寄せ集めのミュシャ・ポスター」がまだミュシャらしく見えますが、ほぼ 同じポーズのデッサンが残されており、アメリカ時代最後の頃のミュシャ・ポスターであることがわかります。
パリ時代の優美さがなくなってしまったのはなぜでしょう。
現代の印刷は原画から写真製版します。当時も写真製版は普及していましたが、ポスターはリトグラフ職人が原画を版石に模写して製版していました(左下のリトグラフ製作工程を参照)。出版文化が花開いていたパリにはリトグラフや木版の優れた技術をもつ職人がおり、とくにシャンプノワ・リトグラフ工房ではミュシャの魅力をよく理解し原画に忠実に製版する職人がミュシャ・ポスターの成功を支えていました。しかしすでにオフセット印刷(リトグラフと同じ原理の新しい印刷術)に移行しつつあったアメリカでは職人は模写に慣れていないうえ、ミュシャ自身も次のステップのプラハ時代に向かいつつあった時期で、印刷所にデザイン原画を渡して制作のすべてをまかせざるをえないという事情もありました。
コルセット から ブラジャー へ
19世紀末から20世紀初頭は女性が社会に進出しはじめた時代でしたが、女性たちはまだすその長いスカートの中で窮屈なコルセットに縛られていました。それでも街角のポスターにコルセットが登場しはじめたことは新しい時代を予感させました。
「錆びないコルセット」とはそれまでクジラのひげをコルセットの骨にしていたのを活動的な女性のためにスチールワイヤーを使うようになり、錆びやすいスチールワイヤーでありながら錆びないことをセールスポイントにしています。
女性がコルセットから解放されるのは、もう少しあとの1920年代にポール・ポワレやココ・シャネルたちの機能的なデザインが登場してファッションの時代が始まるまで待たなければなりません。そのさきがけとしてワーナーズ社は1902年(明治35年)には女性のプロポーションのためのブラジャーを発売しますした。先進的なアメリカのメーカーといえるでしょう。(日本でブラジャーの販売がはじまったのは約50年後の1951年になってから)
現在のWarner's はCalvin Klein、SpeedoとともにWARNACOグループのブランドでブラジャーなどの女性用下着で信頼を集めています。
リトグラフ製作工程を示すリトグラフ (J.レナート氏 蔵)
中央に、原画を模写する職人の姿が見える。
コルセットのポスター 上 左から G. ヌリ (1896年)、P.リヴモン (1897)、カッピエルロ (1901年)
下 A. シューブラ(1894年)
『ワーナー・コルセットのデッサン』
(1909年)
ミュシャ・コラム
「寄せ集めのミュシャポスター」