L U
ルフェーヴル・ユティル社は、「リュ LU」の愛称で100年以上親しまれてきたフランスのビスケット・メーカーです。ジャン・ロマン・ルフェーヴル(1819-1883)とポリーヌ・イザベル・ユティル(?-1920)の二人が1846年(弘化3年)にフランスのナントで創業し、二人の名前をあわせて社名にしました。後に2人は結婚し、息子のルイ(1858-1940)の代からは姓を「ルフェーヴル・ユティル」とあらためています。広告の力をよく理解していたルイは、ブイッセ、ミュシャ、カッピエルロなど第一級のグラフィック・デザイナーを起用して「LU」を宣伝しました。
ルフェーヴル・ユティル社は1986年にダノン社に買収され、さらにダノンがクラフト社に吸収されたため社名はなくなりましたが、「LU」ブランドのビスケットは今も販売しており、フランスだけでなく世界各地で人気があります。
カレンダー
ビスケットを勧める女性を描いたミュシャらしい美しいポスターですが、このポスターはノベルティ用の『1897年カレンダー(1896年制作)』を流用したものです。
実は、ルフェーヴル・ユティル社はカレンダーを制作した当初にもこのデザインをそのままビスケットのポスターに改作していました。カレンダーの「タマ」と呼ぶ数字部分を空白にしただけだったため、そのポスターにはカレンダーの年号「1897」の数字が残っています。
1900年にふたたび改作したこのポスターは、カレンダーの枠内も作り変えて「ヴァニラ・ゴーフル」など、他のLU社製品を宣伝するポスターとしました。しかしタイトル文字は元のカレンダーのままになっているので一般には『ルフェーヴル・ユティル・ビスケットのポスター』と呼んでいます。
ヒナゲシと麦
「鎌 カマ」と「麦」模様の衣装を着た女性が描かれています。「麦」はもちろんビスケットの原料の小麦ですが、右上からぐるりとフレームが伸びて「L」、「U」の装飾を作り、衣装にある曲がった鎌の形が「ルフェーヴル・ユティルLefevre-Utile」の「U」の字に見えます。
「鎌」 、「ヒナゲシ」、「麦」は、ローマ神話の農業と復活の神「ケレス(ギリシア神話ではデメテル) 」のシンボルでもあり、ミュシャが「LU」のビスケットを神話のイメージと結びつけてデザインしているのがわかります。
ビスケットの形
ミュシャはLU社の1896年当時の新しいビスケットの形をイメージしてカレンダー部分をデザインしています(左の部分図 参照)。しかし1900年の改作ではヴァニラ・ゴーフルの宣伝ポスターに変えたため、残念ながらミュシャのデザイン意図とは少しズレてしまいました。
LU社は、ビスケットが均一に早くおいしく焼けるよう工夫してビスケットの形をデザインして生産効率を上げ、広く販売しました。このビスケット型は世界中のビスケット・メーカーに取り入れられたので、日本でも「ビスケット」といえばこのデザインを思い浮かべる方が多いでしょう。
『LUビスケットのポスター 下絵』
R.グリュオー (1989年)
ルフェーヴル・ユティル・ビスケット生地の型
(ブルターニュ公爵城ナント歴史博物館 Château des ducs de Bretagne Musée d'histoire Nantes)
『LUビスケットのポスター』
F.ブイッセ (1897年)
『LUビスケットのポスター』
R..サヴィニャック (1988年)
ルフェーヴル・ユティルのビスケット
(ブルターニュ公爵城 Château des ducs de Bretagne)
ミュシャ・コラム
「寄せ集めのミュシャポスター」
ルフェーヴル・ユティルは、ビスケットを効率的においしく焼きあげるために工夫を重ねてビスケットの形をデザインした。
今もこの形は続いており、LUブランドだけでなく世界中のビスケットメーカーがとりいれたので、ビスケットといえばこの形をイメージする人も多い。
『ケレスのダイアモンドティアラ』 (19世紀前半)
Albion Art Jewellery Institute
アルビオンアート・ジュエリー・インスティテュート蔵